まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
−−−−−−
まだ髪を結い始めたばかりの君の前髪を
林檎の樹の下で見た時に
その前髪に挿している花櫛のように
君のことを美しいと思ったよ
優しく笑いながら白い手を差し延べて
林檎を僕にくれたのは
その薄紅の秋の実を大切に感じたのと同じように
君に恋心を抱いたころだったね
思わず出てしまった僕の溜息が
君の髪の毛にかかるとき
楽しい恋の盃を
君が添えた純情とともに酌んでいるのだと思ったよ
林檎畑の樹の下に
自然と出来たようなこの細い道は
一体誰が作ってしまったのでしょうかねと
いたずらに尋ねてくる君が恋しくてたまらない
島崎藤村 / 初恋
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誰にも言えないのでここで言わせてください。人生四度目の文学賞を先日受賞しました。ペンネーム出しの佳作ですが、割と大きな賞です。
気分がとても良いので、トウソンシマザキで原点回帰しました。
この波の繰り返しがあれば今後しばらくは生きていけるかもしれない。
2012/10/13 royalpain
05:35